作成:2022.11.16 更新:2024.7.20
今回の内容は2020年4月に創設された「配偶者居住権」について。
この制度を活用すると、亡くなった人(=被相続人)の配偶者が、住み慣れた自宅に住み続けながらバランスのよい遺産分割が可能となります。
これからも安心して生活をしていくために、遺産分割の選択肢の一つとして、特に相続財産の大半が自宅不動産である人には知っておいて頂きたい制度です。
目次
1,従来の相続における課題
相続手続きを経て、のこされた配偶者が引き続き住み慣れたその住居に住み続けるためには、以下の2つの方法をとることになります。
①配偶者が住居を相続する
②住居を相続した相続人から無償あるいは有償で借りる
①の場合ですと、配偶者が自宅を相続した場合、他の相続人との相続分のバランスの関係上、配偶者は自宅以外の預貯金などの相続についてはあきらめるか、たとえ相続できても少額になってしまうケースが多くあります。
②の場合は、相続人が自宅を売却してしまった場合には住み続けられなくなったり、仮に住み続けられるとしても家賃が発生することも考えられます。
2,配偶者居住権の意義
これらのように従来の方法では、自宅を相続できても生活に不安が残ったり、あるいは住み続けることも出来なくなったりと、プラスとマイナスの両面が存在しているような感じでした。
そうしたのこされた配偶者を支えるための制度である配偶者居住権は文字通り、「配偶者」のために「居住権」を保護するためにあります。
これまで自宅というのは不動産所有権という一つの権利だったものが、「配偶者居住権」と「負担付所有権」の二つの権利に分けてそれぞれを別に相続するという考え方です。
それがどのような意味を持つのかというと、配偶者居住権を被相続人の配偶者が、負担付所有権を子供が相続できるようになります。
つまり従来の方法による相続に加えて「バランスのよい遺産分割」「無償で安定した住居の確保」を可能にする選択肢を設け、家庭の事情に合った遺産分割がしやすくなるように導入された制度といえます。
3,図解(事例)でわかる配偶者居住権
【事例】
- 相続人・・・妻と子の2人
- 遺産・・・自宅不動産(2,000万円)と預貯金(3,000万円)
- 妻と子の相続割合・・・1:1(妻2,500万円 子2,500万円)
従来通りの方法で法定相続が行われる場合、妻と子はそれぞれ2,500万円ずつの遺産を相続することになります。
そして妻がそのまま自宅に住み続けるために自宅不動産(2,000万円)を相続した場合、残りの相続可能な預貯金は500万円ということになります。
一方で子は不動産を相続しませんので、預貯金2,500万円を相続することになります。
その結果、妻は自宅に住み続けられるものの、預貯金が500万円となり今後の生活費に不安が残る可能性が生じてしまいます。
遺産のうち、自宅不動産を「配偶者居住権」と「負担付所有権」に分け、仮にそれぞれ1,000万円ずつの価額で計算する場合を考えてみましょう。
- 妻・・・配偶者居住権(1,000万円)+預貯金(1,500万円)
- 子・・・負担付所有権(1,000万円)+預貯金(1,500万円)
をそれぞれ相続することになります。
子は相続できる預貯金が減少しますが、負担は付いているものの所有権を取得することができます。
このように不動産所有権を「配偶者居住権」と「負担付所有権」に分けて相続させることで配偶者を保護すると同時に他の相続人との関係においても調整を図ることが可能になります。
4,配偶者居住権の設定要件
配偶者居住権が成立するためには,以下1~3の要件をすべて満たす必要があります。
-
残された配偶者が、亡くなった人の法律上の配偶者であること
-
配偶者が、亡くなった人が所有していた建物に、亡くなったときに居住していたこと
- ❶遺産分割、❷遺贈、❸死因贈与、❹家庭裁判所の審判のいずれかにより配偶者居住権を取得 したこと
(❶は相続人の間での話合い,❷❸は配偶者居住権に関する遺言又は死因贈与契約書がある場合, ❹は相続人の間で遺産分割の話合いが整わない場合です。)
また、配偶者居住権を取得した場合に、これを登記することによって、第三者(例えば、居住建物を譲り受けた方)に対して居住権を主張できるようになります。
権利関係をめぐるトラブルを避けるためには配偶者居住権を取得したらできるだけ早く登記手続をする必要があります。
5,まとめ
「配偶者居住権」の制度が誕生したことによって、相続の選択肢が広がりました。
残された配偶者が安心して住み慣れた自宅で暮らし続けることができる配偶者居住権は所有権ではなくあくまで居住権です。
絶対に設定しなければいけないという訳ではありませんが、設定する前に、その後のライフプランについてもあらかじめ考えたり、ご夫婦でも話し合っておく必要がありそうですね。
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行政書士はやし行政法務事務所
代表行政書士 林 宏雄