
一般的に利用される普通方式の遺言には、自筆証書遺言、秘密証書遺言、公正証書遺言の3種類があります。
当事務所では一番確実な公正証書による遺言書の作成を推奨しておりますが、そうはいっても手軽に作成できる自筆証書遺言を利用されている方も多いと思います。
今回は、自筆証書遺言を作成する場合に一緒に添付しておきたい財産目録がテーマとなります。書き方や作成上の注意点もあわせてご紹介いたします。
目次
1,遺言書の財産目録とはどういうものか
遺言書につける財産目録は、遺言者の所有する相続財産の一覧表です。
預貯金などの資産だけではなく、借金など、負の財産を含めてすべて記載しておくことで、相続財産の内容を明確にできます。
一部のみの記載では、相続人が誤解するおそれがありますし、記載しなかった遺産について相続争いが生じやすくなってしまいますので、やはりプラス・マイナス全ての財産を記載した方がよいです。
以前は財産目録も含めて遺言書は全文を自筆することが要件とされていましたが、平成31の民法改正によって、財産目録については自書が求められなくなりました。
つまりパソコンで作ることも出来ますし、他の人に作ってもらうことも可能になっています。
遺言書に財産目録を添付することは法律上必ずしなければならないわけではありません。
したがって、財産目録がなくても遺言書は有効です。
有効ではりますが、財産目録がない遺言書は以下のようなリスクがあります。
✅相続人が財産を把握しにくい
遺言者本人は自らの財産を把握しているので良いのですが、例えば子供や配偶者といった相続人は遺言者と同じように遺言者の財産を把握しているでしょうか。配偶者であればまだ分かる部分も多いと思いますが、別居している子供であればほとんど分かりません。
通帳なども発見できなければ、口座開設している可能性のある金融機関に片っ端から照会をかけることになりかねません。その他にも財産調査には大変な手間、時間が相続人にはかかってしまいます。
✅相続トラブルの原因になる可能性も・・・
相続人の間でなんとか遺産分割協議が成立したとしても、その後に別の新たな遺産が発見されると、再び遺産分割協議を行わなければなりません。
そうなると他の相続人の中から、まだ他にも遺産があるのではないか?など疑われてトラブルになる可能性もあります。
財産目録がないということは、このような相続トラブルを招いてしまうリスクがあるのです。
2,遺言書に財産目録を添付しておくメリット
財産目録を作成して遺言書に添付しておくと以下のようなメリットがあります。
✅遺言書の作成がスムーズになる
遺言書というのは遺言者のどの財産を誰にどれだけ渡すのか、という意思表示です。ですのでまずは財産の全体像、数量が把握できていないと遺言書も書けませんから、特に財産の種類が多い方は財産目録を作成しておくべきです。
そして先ほども触れましたが、法改正によって財産目録はパソコンで作成できるようになりました。しかし遺言書本体は自筆で書かなければなりません。
そうすると財産目録を作成する場合の遺言書は下記のように書き方になります。
(例)「別紙財産目録の□□を○○に相続させる」
とてもシンプルに表現できますので遺言書本体を自筆するとしても、そこまでの負担はありません。
もし財産目録を作成しないのであれば(=遺言書本体に財産の明細を記載するのであれば)財産の中身を一字一句正確に手書きしなければなりません。
誤字脱字があれば、また厳格なルールにのっとって訂正しなければいけません。ご高齢であるほど自筆の負担は大きいと思います。
✅相続手続き、遺産分割協議がスムーズになる
もし財産目録がなければ、相続人が時間と労力をかけて財産を調査しなければなりませんが、遺言者自身が目録を作成しておけば、財産調査にかかる時間を短縮でき名義変更その他の相続手続きにスムーズに入ることができます。
相続放棄をしたいということであれば、相続開始後3ヶ月以内に行う必要がありますので、とてもタイトなスケジュールになりますし、相続税の申告は相続開始後10ヶ月以内という期限が設けられていますが、仮に遺産分割協議が必要になった場合も、財産目録があることによって余裕をもって協議を行えます。
✅相続税申告が必要かどうかの判断材料になる
遺言者が財産目録を作成することによって、相続開始時にかかる相続税の見込みをあらかじめ知ることができます。
ご本人や相続人も含めてですが、見込みを知ることができれば、納める金額をあらかじめ準備しておくことができます。
また、実際に相続税申告書を作成する際の参考とすることもでき、やはりスムーズな手続きにつながるといえるでしょう。
✅生前贈与等の相続税対策ができる
上記内容にも関係しますが、遺言者が財産目録を作成することによって、相続開始時にかかる相続税の見込みをあらかじめ知ることができます。
相続税がかかるような場合には、かかる相続税の金額や税率、贈与した場合の贈与税率などに照らしながら、適切に生前贈与をしていくことで、相続税を減免させる効果も期待できます。
3,財産目録の書き方
それでは、実際の財産目録についての書き方についてご紹介いたします。
といっても、実は財産目録の書き方について法律上の決まったルールはありません。
したがって、遺言者は自由な書き方で記載することができますが、大事なことは財産をきちんと特定することと、相続争いなどのトラブル原因となる記載漏れに注意することです。
財産目録の主な記載事項は以下になります。
✅現金・預貯金
現金は、特定できるように保管場所を記載します。
預貯金は、銀行名、支店名、種類、口座番号などを記載します。
残高は記載する必要はありません。遺言書を書いた後にも変動する可能性が高いので残高は記載しない方がよいです。
✅土地・建物
登記事項証明書を取得して、所在、地番、家屋番号など正確に書き写しましょう。
取得した登記事項証明書も財産目録に添付しておけば、より確実です。
「土地」「建物」は別不動産です。「自宅」というだけではそれが土地なのか、建物なのか、それとも土地・建物なのかの特定ができないため、「土地」と「建物」を別に記載しましょう。
✅有価証券
銘柄、株式数、証券会社(口座情報など)の情報を記載します。
✅借入金
相続財産はプラスの財産だけとは限りません。借入金などのマイナス財産がある場合にもきちんと記載しておきましょう。
プラス財産の中にマイナス財産を混ぜて記載すると分かりにくくなるため、マイナス財産は別にまとめて記載しておくと良いです。
具体的に借入金は、借入先の情報、借入残高を記載します。金銭消費貸借契約書や返済表なども添付しておくと、より分かりやすくなります。

4,財産目録の作成上の注意点
最後に、財産目録を作成する上での注意点をまとめておきたいと思います。
✅各財産が特定できるよう正確に記載しましょう
相続財産の種類、所在、数量などをきちんと簡略化せずに記載する必要があります。
相続手続きをする際に相続人が迷うことのないよう財産を特定できる記載にしましょう。
✅記載漏れに注意しましょう
もし財産目録に記載漏れがあった場合は、その部分についての遺産分協議を行わなければなりません。そうなると何のために遺言書を作成したのか分からなくなってしまいますので、記載漏れが無いように注意しましょう。
ただ、もし記載が漏れていたとしても、遺言書が無効にはなりませんのでご安心ください。
✅署名・押印の方法
パソコンで財産目録を作成した場合は、署名と押印が必要です。
使用する印鑑は、実印である必要はありませんので遺言書本文と異なるものでも構いませんが、個人的には遺言書に押印する印鑑は実印で統一されることをお勧めします。
尚、財産目録への署名押印は枚ページに必要になるので注意しましょう。
✅財産目録の添付方法
財産目録を遺言書にどのように添付するかに、法律上の決まりはありません。
遺言書とホッチキス止めをするのも良いですし、ホッチキス止めはしなくても遺言書と同じ封筒に入れるなど、遺言書と同時に読める状況にしておくと良いと思います。
✅定期的に見直してアップデートしておきましょう
財産は日々変動します。特に若い方はその後のライフスタイルによっても大きく変動する可能性もありますので、年に1度くらいは財産の見直しをして、情報をアップデートしておきましょう。そうすることで、現在の状態をより正確に把握できますし、今後のライフプランを見直すことにもつながります。
5,まとめ
財産目録の作成にあたりポイントをまとめると
- 財産目録はパソコンで作成できるようになりました。
- 財産目録の作成義務はありませんが、遺言書の作成や相続手続きがスムーズになるなどのメリットがあります。
- 相続税申告が必要かどうかの判断や、生前贈与等、相続税の対策にも役立ちます。
- 署名、押印は各ページに必要なので注意しましょう。
- 一度作成した財産目録も、定期的に見直して情報をアップデートしておきましょう。
これから遺言書を書く際のご参考になれば幸いです。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
行政書士はやし行政法務事務所
代表行政書士 林 宏雄
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