人が亡くなると、その人が持っていた財産というのは、法律で規定されている範囲の人が相続人となり財産を承継することになりますが、その相続人がいない場合はどうなるのでしょうか。
目次
相続人がいない状態とは
相続において“相続人がいない”ということは、法律(民法)で定められた範囲の相続人(=法定相続人)がいない状態を表わしています。また、法定相続人の全員が“相続放棄”した場合も同様に“相続人がいない”状態ということになります。
一方で“相続人が行方不明”という状態は、相続人がいない場合とは区別されます。この場合は、まずは行方不明の相続人を探し、それでも見つけることができないとき、行方不明者に代わって遺産管理する「不在者財産管理人」を選任するか、失踪宣告によって法的に死亡扱いとする手続きをしなければなりません。
(参考記事「相続人の中に行方不明者がいる場合」)
法定相続人となる人は、まず配偶者は必ず法定相続人になります。そして「配偶者」+「第一順位のお子さん、第二順位のご両親(祖父母)、第三順位のご兄弟(兄弟姉妹)のいずれか」という範囲の人であり、配偶者以外は、優先順位の高い方から相続していくことになります。つまり、配偶者がおらず、かつ第三順位までに該当される人もいらっしゃらなかった場合にはじめて“相続人がいない”ということになります。
(参考記事「民法上の法定相続人の範囲と相続割合」)
(参考記事「相続人がすでに亡くなっている時の相続」)
相続人の有無を調べる方法
相続人の有無を調べる方法としては戸籍謄本の請求が最も良い方法です。ご自身が生まれたときから現在に至るまでの連続した戸籍謄本を確認する方法です。
ご自身が生まれた時には親の戸籍に入籍することになりますが、結婚をすると親の戸籍から出て新たに夫婦で新しい戸籍をつくります。また、別の市区町村に引越しをしたときに本籍地も移動(=転籍)することもありますし、法改正によって戸籍の書式が作り変えられるという原因もあります。
このように生まれてから現在まで同一の戸籍にずっとい続けることはほとんどなく、出生からはじまり婚姻、転籍などの原因を経て(連続して)現在に至っているため、戸籍謄本は複数存在しています。
したがって、現在の本籍地で取得した戸籍謄本1通で終わり、ということではないので注意が必要です。請求する戸籍の通数は1人の方で、およそ3~5通ほどになるはずです。
このように戸籍謄本が複数ある場合は、現在の本籍地で戸籍謄本を取得し、その戸籍に自分がいることを証明できる在籍期間を確認しながら遡っていき、該当するすべての役所で取得していくことになります。
(参考記事「遺産相続と戸籍」)
そのようにして出生から現在まで戸籍謄本がそろったら、記載のある人物との関係性を確認し、ご自身の相続人の有無を判断します。養子縁組や認知をした事実なども影響がありますので丁寧に確認する必要がありますが、特に昔の戸籍は手書きで書かれていたり字のクセがあったりで解読が難しいことも少なくありません。
※相続に関連する戸籍収集はやはり専門家に相談するのがよいと思います。
相続人がいない場合の手続き
相続人の全員が相続放棄をして相続人がいなくなった場合も含め、相続人が誰もいない場合はどのような手続きになるのでしょうか。
まず、家庭裁判所に「相続財産清算人」を選任してもらい、債権者を探して弁済がなされ、特別縁故者がいればその人に財産を分与し、最終的に残った財産は国庫へ帰属します。
(以下、裁判所HPより)
- 家庭裁判所は,相続財産清算人選任の審判をしたときは,相続財産清算人が選任されたことを知らせるための公告及び相続人を捜すための公告を6か月以上の期間を定めて行います。この公告の期間満了までに相続人が現れなければ,相続人がいないことが確定します。
- 1の公告があったときは,相続財産清算人は,2か月以上の期間を定めて,相続財産の債権者・受遺者を確認するための公告をします(1の公告の期間満了までに2の公告の期間が満了するように公告します。)。
- 1の公告の期間満了後,3か月以内に特別縁故者に対する相続財産分与の申立てがされることがあります。
- 必要があれば,随時,相続財産清算人は,家庭裁判所の許可を得て,被相続人の不動産や株を売却し,金銭に換えることもできます。
- 相続財産清算人は,法律にしたがって債権者や受遺者への支払をしたり,特別縁故者に対する相続財産分与の審判にしたがって特別縁故者に相続財産を分与するための手続をします。
- 5の支払等をして,相続財産が残った場合は,相続財産を国庫に引き継いで手続が終了します。
相続人がいない場合は遺言書作成がおすすめです
“相続人がいない”場合の手続きの流れは、上記のとおり手間と時間を要し、利害関係人にかなり負担がかかります。また、手続きを進めても、特別縁故者が財産を分与されるとは限りません。
大切な人に財産を確実に引き継いでほしい、負担をかけることなく財産を相続してもらいたいという思いを実現するには、やはり遺言書の作成が最適です。
遺言書を残すことで、ご自身の思いどおりに財産を引き継いでもらうことができ、相続手続きをスムーズに進めてもらうことができます。
ただし、遺言書を作成するといっても、遺言書は法律によって厳格な要件が定められているので、自由に記載すれば良いというものではなく、書き方に不備があると、せっかく作成していても、無効になる可能性もあり、そうするとご自身の思いを実現できなくなってしまう恐れがあります。
遺言書が無効になることを防ぐためには、公正証書遺言を作成されることをお勧めします。公正証書遺言書であれば、公証人が代理で遺言書を作成してくれますので、記載内容の不備を防ぐことができます。また、公証役場で保管もされていますので偽造や紛失といった心配もいりません。
また、2020年7月10日からは、自筆証書遺言書の法務局での保管制度を利用できるようになりましたが、この制度は、遺言書の内容を保証するものではありません。自筆証書遺言書は比較的手軽に作成することができますが、確実性でいえばやはり「公正証書遺言書」の方が安心です。
財産内容が変わったら遺言書も書き直しを
一度作成した遺言書は、いつでも書き直すことができることをご存知でしょうか。ご自身のお気持ちや財産の状況などが変わることもありますので、定期的に遺言書の内容を確認して、変更点があれば書き換えるなどして定期的に見直しましょう。
公正証書遺言書の場合、原本を修正することも手続き上は可能ですが、実務上では新たに作成し直すことがほとんです。いずれの場合も手数料がかかりますが、確実に相続をしてもらえることを考えれば、そこは割り切った判断も大切だと思います。
まとめ
相続人がいない場合には、やはり遺言書を作成するのがおすすめです。
遺言書があれば、遺産の処分に関して自分の意思を法的な書類として形にできるため、病院や学校、慈善団体などへの寄付も可能です。そして遺言書を書くのであれば遺言執行者を指定しておくと、執行時の手続きがスムーズにいきます。
そして、遺言書の作成は証明力の高い公正証書がベストです。もし手続きに不安のある人は専門家に相談するとよいでしょう。
遺言書の作成なら当事務所へご相談ください
当事務所は、京都市を中心に関西全域で、遺言書の作成支援や各種協議書の作成など親族法務を専門にしている行政書士事務所です。親族法務の中でも特に公正証書遺言の作成に力を入れておりますので、作成をお考えの方のご相談をお待ちしております。
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行政書士はやし行政法務事務所
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