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封がされていない遺言書の効力と保管上のポイント

作成:2022.9.28 更新:2024.4.29

今回のテーマは「封がされていない遺言書の効力」について。

 

専門家が関与する場合やご自身で色々と調べて遺言書を作成される人は「遺言書の検認手続き」という民法上のルールをご存知なので、一般的には遺言書は封印された状態で保管されています。

 

しかしそうではなく、例えば封印せずに遺言書を遺した親が亡くなった場合、後から発見した子としては、その有効性について不安に思われる人もいらっしゃると思います。

 

今回はそうした封がされていない遺言書の有効性について、また保管上のポイントもあわせてご紹介したいと思います。

目次

1.自筆証書遺言は封印されていなくても有効

「封印」というのは 封をした証拠として印を押したり証紙をはったりすることを言います。遺言書で言えば、作成した遺言書を封筒に入れ封をして、遺言書に押印したのと同じ印で封に印を押すということを言います。

 

さて、封印されていない遺言書の効力ですが、結論としては「有効」になります。

封筒に入っていても封印されていない場合や、遺言書が裸の状態で保管されていても、遺言書自体が有効に作成されたものであればその遺言書は有効となりますのでこの点はご安心ください。

 

ただし、遺言が公正証書ではなく自筆で作成されている場合、封印の有無に関わらず、遺言者の死後に遺言書を発見した時、手続きが必要となりますので注意してください。

2.封印されていない遺言書も検認手続きは必要か

民法では「(自筆による)遺言書を保管している人または発見者は家庭裁判所に提出して検認の手続きをしなければならず、封印のある場合には、家庭裁判所で相続人の立会いがなければ開封してはならない」というふうに定められています。

 

ちなみに、家庭裁判所への提出を怠ったり、検認手続きを行わないまま遺言を執行したり、家庭裁判所以外で勝手に開封すると5万円の過料に処せられる可能性があります。

 

話しを戻すと、封入(封印)されていようがいまいが、家庭裁判所の検認手続きは避けて通れないということになります。

 

であれば、作成した遺言書をわざわざ封筒に入れて封印しておかなくても一緒でしょ、むしろ封印までする必要はないのでは?と思われるかもしれません。

 

確かに法的には効力は同じです。

なのに何故封印が求められているかというと、様々なリスクが考えられるからです。

3.遺言書が封印されていない場合のリスク

これまでの内容は、「相続する側の人」に向けて書きましたが、ここからはどちらかというと、「遺言者」に向けた内容になります。

 

遺言書の効力の問題は、遺言者が亡くなったときから始まります。

当たり前の話しですが、遺言書が効力を発揮するときには遺言者は既に亡くなられていますので、本当に私が書いた、ということを本人が証明したり説明することはできないからこそリスクが発生することになります。

 

具体的なものを以下ご紹介します。

破棄(はき)・隠匿(いんとく)のリスク

まず1つ目のリスクとして、「破棄・隠匿」が考えられます。

封がされていないということは、遺言書の内容を簡単に見ることができるということです。

 

書類の整理をしていたらたまたま見てしまったということもあるでしょう。

もし仮にその内容が発見者自身よりも他の相続人の方がより多くの遺産をもらえるような内容だった場合、納得がいかず誰も見てない事をいいことに破いて捨ててしまったり隠したりしてしまう可能性があります。

また、封筒に入っているものが遺言書とは思わずに何かのチラシと勘違いして、見ずに捨ててしまうこともあるかもしれませんね。

 

そうなると遺言書は初めから無かったようなもので、何のために遺言書を書いたのか分からなくなります。

家族を想い遺した遺言書であれば、そのような事態にならないためにもきちんと封印し、中身が遺言書だと分かるように工夫しておく必要がありますね。

書き換えられてしまうリスク

2つ目のリスクは「書き換え」られてしまうリスクです。

遺言書の発見者が自分の都合の良いように書き換えてしまうことです。

 

遺言者がお元気なうちは遺言者本人が内容を書き換えることもあるでしょうが、遺言者が亡くなってしまっていると、本人が書き換えたのか、本人以外の違う誰かが勝手に書き換えたのかを検証する必要があります。

 

結果がどうであれ、書き換えられた疑いのある遺言書となると、相続人同士の争いの原因になりかねません。遺言者としてはそのような争いは望んでいないはずです。そうならないようにするために遺言書を書いたはずなのに遺言書が原因で争いに発展すれば本末転倒ですね。

 

こうした書き換えを防止するのであれば、やはり封筒に入れ、きちんと封印しておくべきです。

4.遺言書を保管する際に気をつけたいこと

遺言書が封印されていない場合のリスクを挙げてみましたが、遺言者が既に亡くなっている以上さまざまなリスクが考えられます。

 

想いを込めた作った遺言書が捨てられてしまったり、争いを起こさないためにも、作成した遺言書を保管する際に気を付けておきたいポイントをご紹介します。

まず遺言書自体が有効なものであること

封印しておく以前の問題として、遺言書自体が要件不備であれば、それは残念ながら無効となってしまう可能性が高いです。

一度封印してしまうと内容の撤回や変更をする意思がない限りは、そのまま(無効のまま)の状態で死を迎えることになってしまいます。

 

公正証書で作成する場合は問題になりませんが、自筆で遺言書を作成する場合は注意が必要です。

市販されている遺言書キッドの利用もよいと思いますが、専門家の目で有効無効のチェックをしてもらうことも選択肢の一つでしょう。

封筒の中身が遺言書であることが分かること

作った遺言書を封筒に入れ封印したとしても、その封筒を見た人が遺言書であることを認識できなければ、何かのチラシだと勘違いし、発見と同時にゴミ箱へポイ・・・となりかねません。

 

封筒の表には「遺言書在中」、裏には「日付」「署名・押印」と共に「この遺言書は家庭裁判所の検認を受けるまでは開封しないでください」など注意を促すメモも書いておくとよいでしょう。

保管場所についても考えておきましょう

封印した遺言書をどこに保管すべきかという問いに対し正解はありません。

あまり奥にしまいすぎず、かといって日常の新聞・チラシと間違うような場所には保管しない方がよいのは言うまでもありません。

 

ただし、大切なものだからといって、銀行の貸し金庫に保管するのはオススメしません。

契約者が亡くなった場合、貸し金庫の開扉(かいひ)には遺産分割協議書や相続人全員の印鑑証明が必要になる場合があるなど、手続きが大変だからです。そもそも貸し金庫の存在に気づかないかもしれません。

 

保管場所についてもご自身の状況に応じて最適な場所を検討してみてください。

遺言書作成の周知

もう一つ大切なポイントは、公正証書・自筆証書を問わず遺言書を作成したことを親族には出来るだけ伝えておきましょう。一部の人だけではなく全員が望ましいです。

例えば夫が遺言者で妻と子が相続人になる可能性がある場合は、妻と子の両方に伝えておきましょう。

 

相続人が遺言書の存在について共通認識を持てると、争いをあらかじめ防げることも期待できますし、せっかく書いた遺言書の存在に気づかれないことも避けることができます。

【参考記事:遺言書の保管方法

5.まとめ

自筆による遺言書は封印されていなくても法的に有効です。

法的には有効ですが、発見した場合は封印されているかどうかに関わらず家庭裁判所に提出して検認手続きをしてください。

 

遺言書の封印がされていないことのリスクは、ご紹介したようにさまざまあります。

大切なのは遺言者の想いが実現されること、そして遺された人達にとっても安心してもらえること、そんな視点を持てる遺言をしたいものですね。

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行政書士はやし行政法務事務所

代表行政書士 林 宏雄