作成:2022.8.17 更新:2024.4.28
「数年前に公正証書遺言を作成したが、その後住所が変わりました。何か届出などの手続きをしておかないと問題が起きますか?」というご相談がありました。
介護施設への入所で住所変更する必要がある場合もあるでしょうし、例えば娘に財産を相続させる遺言書を書いたとして、その娘が結婚や離婚などで氏名、住所が変わることもあるかもしれません。その他にも様々な生活環境が変化することは自然なことです。
今回は「住所や氏名が変わったら遺言書の効力はどうなるか、何か手続きが必要になるのか」というテーマです。
目次
1.遺言書の氏名や住所記載は対象者を特定するため
公正証書遺言において、遺言書に記載されているご本人や相続関係者は「氏名」だけでなく、「遺言者との関係」や「生年月日」、「住所」なども記載されています。実際に作成された方は、何でここまで記載されるんだろう・・・と思ったことはないですか?
これは、遺言書の作成者や財産を受け取る人、遺言執行者など、登場人物を特定するために記載しています。
遺言者が亡くなった後に遺言書が実際に必要になる場面というのは、法務局や金融機関などで名義変更や解約など相続手続きを行う場合です。そうした申請先で審査をするときに「氏名」だけでは本当にその人が存在したのか、人違いではないのかという問題が起き、本人かどうかを確定することができません。同姓同名の方が他にいる可能性もありますので。
そうした曖昧な状態では判断ができないので、「氏名」以外にも「遺言者との関係」や「生年月日」、「住所」などを一緒に記載し、戸籍謄本や登記簿謄本など公的証明書類を添付することによって、間違いなく「この人」という風に特定をするわけです。
自筆証書遺言の場合は公正証書遺言と違い、遺言者の署名は必要とされているものの「生年月日」や「住所」の記載までは法律上求められていません。したがって、変更の問題が生じる可能性があるのは「氏名」が変わったときになります。
ちょっと余談になるかもしれませんが・・・
先ほども少し触れましたが自筆証書遺言は遺言者の署名押印が求められています。いずれやってくる相続手続きをスムーズに行うために、遺言者の署名押印以外にも「生年月日」「作成日現在の住所」も併記しておきましょう。
それとあわせて「戸籍謄本」「免許証のコピー」を同封しておくこと、そして遺言書の押印箇所はすべて「実印」の使用と「印鑑証明書」も同封しておくことをお勧めいたします。これも遺言者を特定するための資料として有益なので、当事務所のご相談者様にはそのようにお伝えしています。
2.遺言書の書き換え手続きは必要か
結婚や離婚、引っ越しなどの生活環境の変化によって氏名や住所が変わることは当然起こり得ます。
その場合、遺言書を書き直したり、公証役場で何か手続きが必要になるのでしょうか。
結論を申し上げると、何も手続きする必要はありません。
遺言者や相続関係者に上記のような変更があっても遺言書を作成し直したり、何か書類を提出する必要もなく、遺言書の効力に影響はありません。
遺言書作成日の時点で、遺言者や相続関係者などの情報が特定され、方式に沿った形で作成されていれば有効になります。
作成した遺言書が有効である限りは、仮に遺言書の作成後に氏名、住所変更があったとしてもその遺言書をもって遺言執行することができます。
3.自筆証書遺言書保管制度を利用されている方
これまで、住所や氏名変更が生じた場合には遺言書を書き直したり、書類を提出するなど手続きは必要無しと説明しました。
しかし令和2年7月に施行された「法務局における遺言書の保管等に関する法律」により、自筆証書遺言の保管制度を利用している方に関しては手続きが必要となります。
法務局における遺言書の保管等に関する政令第3条を要約すると
- 遺言書保管制度を利用している者で遺言書記載の氏名や住所、本籍などに変更があれば届け出てください。
- その届け出は遺言書保管官のいる法務局であればどこでもできます。
- 届出書は様式に従ったもので作成し、別途変更証明書を添付してください。
少し手間がかかりますね・・・。
詳しく知りたい方は(「遺言者の住所等の変更の届出」法務局HPより)をご覧ください。
4.遺言執行の際の注意点
先に述べましたように、氏名や住所に変更があったとしても、遺言者の生前は遺言書の書き直しや届出手続きは不要ですが、相続が開始(遺言者の死亡)した後の遺言執行の際に、「変更を証明する書類」が必要となります。
これは遺言書作成時~相続開始時(死亡時)までの間に起きた変更を証明し遺言書の登場人物を特定するためです。この点だけ注意が必要になります。
変更を証明する書類としては、
- 「氏名」の変更・・・戸籍謄本、除籍謄本など
- 「住所」の変更・・・住民票、住民票除票、戸籍の附票
などです。
ちなみに、遺言作成時に立ち会った証人2名について、氏名や住所が変わったとしても変更証明書は不要です。
5.まとめ
今回の記事をまとめると
- 遺言書を作成した後に氏名や住所が変更になった場合でも、特に手続きは必要なく効力に影響ありません。
- ただし、法務局での自筆証書遺言書保管制度を利用されている方は手続きが必要です。
- 相続開始(遺言者の死亡)した後の遺言執行の際には、遺言書と共に変更証明書を提出しましょう。
遺言書を作成されている方、これから作成しようとしている方のご参考になれば幸いです。
当事務所は、京都市を中心に関西全域で、遺言書の作成支援、相続に関するご相談を専門にしている行政書士事務所です。
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行政書士はやし行政法務事務所
代表行政書士 林 宏雄