遺産相続で争いが起きるのは、主に遺産をもらう側(相続人)にあると思います。
相続人が1人であれば問題ないのでしょうが複数人いればそこには家族とはいえ価値観の違う個人対個人なわけですから意見が食い違うこともあって不思議ではありません。
しかし争いが起こる原因が相続する側だけにあるのかというと、そうではないと思います。
つまり財産を残す側(被相続人)にも原因がある、と言いますか、原因をつくっているのではないかと思うのです。
今回は、自分には関係ない・・・と思っているほど危ないよ、という内容です。
ご興味のある方は最後までお読みいただければ幸いです。
目次
7,まとめ
1,どれだけの遺産分割事件が発生しているのか
自分の死後に配偶者や子供たちが遺産相続で争ってほしいと思っている人はいないと思います。
しかし現実的には相続財産が元で争いが起きている場合もあります。
裁判所のHPで公表されている直近2021年の全国の家庭裁判所で起きた遺産分割事件数は1万3,447件でした。
2021年中に亡くなった方は約144万人いらっしゃいますので、ざっくりと計算すると、相続が起きたご家庭の1%は遺産分割において裁判所で争っていることになります。
この数字は多いでしょうか、少ないでしょうか。
いずれにしてもこれは争いが裁判所での事件にまで発展しているケースですが、そこまでではないけれども、スムーズな遺産分割が行えず、各種名義変更などの相続手続きがストップしてしまいお困りになっている人は相当数いらっしゃるのではないかと推察しております。
2,争いはどこから生まれるか
そもそも相続財産というのは元々は被相続人(例えば親)の持ち物であって相続人のものではありません。
ところが親の死によって相続人にとっては「無」かったものが突然「有」になります。
そこで相続人の心が動くわけです。
他の相続人との比べて内容や量の多い少ないといった利害が発生するからです。
また、相続人の配偶者の意思が横から入ってくることで争いに発展することだってあります。
しかし争いが起こる原因は相続する側だけにあるのかというと、そんなことはありません。
私は財産を元々所有していた被相続人にも原因があると考えています。
「うちの家族はみんな仲が良いから」とか「争うほどの財産がないから」ということをおっしゃる人がいますが、実はそういう人ほど気を付けた方がよいと思っています。
3,遺産分割事件となった遺産の金額
裁判所のホームページで、全国の家庭裁判所における遺産分割事件の件数(認容・調停成立)が遺産の価額ごとに公表されています。
<以下は2021年(令和3年)のデータです>
遺産の価額 | 遺産分割事件の件数 | 割合 |
1,000万円以下 | 2,279件 | 33% |
5,000万円以下 | 3,037件 | 44% |
1億円以下 | 864件 | 12% |
5億円以下 | 493件 | 7% |
5億円を超える | 28件 | 0.4% |
算定不能・不詳 | 233件 | 3% |
家庭裁判所の調停で遺産トラブルが解決した事例としては、
1,000万円以下が33%、5,000万円以下が最も多く44%と、2つで合計77%にまで上っています。
遺産が1,000万円以下であれば相続税が発生する額ではないのですが、それでも揉めてしまうというのが実際のデータを見るとわかりますね。
一旦揉め事が発生してしまうとそれまで仲の良かった家族関係は崩れてしまう可能性があります。
例え法の力で決着をつけることが出来たとしても、目では見えない家族関係というのはそう割り切れるものではありません。
4,実際にトラブルになりやすい事例
大きく分けると、【財産の問題】と【人の問題】に分かれます。それぞれについてご紹介します。
【財産の問題】
►相続財産に不動産の割合が多いケース
裁判所が公開しているデータにもありますが、遺産分割事件に発展している主な遺産に土地や建物、またその両方といった不動産が占める割合が多く、遺産相続で揉める原因の一つということが分かります。
不動産というのは現預金と違い、現物を分けることは難しいという点があります。
一つの不動産を相続人全員で共有することは後々を考えるとあまりよろしくありません。
相続財産のほとんどが不動産である場合には特に分割することが難しいです。
そうすると、誰が不動産を取得するのかという問題があります。
また売却して現金化し相続人で分割する方法もありますが、相続人の中に自宅は売却したくないと思う人が一人でもいれば分割協議は難航し売却は難しくなるでしょう。
相続財産に不動産がある場合はトラブルになりやすいケースと言えます。
►子どもの遺産分割割合で揉めるケース
再婚をしているため配偶者との間の子ども以外に、前の配偶者との間に子どもがいる場合や、認知した子どもがいるような場合、法律上の兄弟だとしても日常の交流は無いことが多いでしょうから、そういう場合もトラブルの原因と言えます。
また実家の家業を長男が継ぐような場合に他の兄弟との関係で相続割合の問題や、相続放棄を求めたことが原因で揉めてしまうケースもあります。
►親の介護などによる寄与分がある事例
寄与分というのは、被相続人の遺産の維持または増加について特別の寄与をした相続人に対し、その貢献に応じて法定相続分に寄与分を加えて遺産を取得させるというものです。
具体的には親の介護であったり家業を手伝ったりしていて遺産の維持、増加に貢献しているのであれば、その事情を考慮することで実質的な公平を図る制度ですが、これもどの程度が特別の寄与にあたるのか、貢献した部分をどのように金銭評価するかは、正解の無い問題と言いますか、個人の価値観が大きく左右する部分でもあり揉める原因となり得ると思います。
【人(=相続人の間)の問題】
財産で揉めてしまうケースがある一方で、人の問題、つまり相続人の間の問題も挙げられます。
►相続人同士の仲が良くない
ここは説明がなくてもイメージできる部分だと思いますが、財産の分け方というよりは、他の相続人に対する負の個人的感情が根っこにあるがゆえトラブルになりやすいケースです。
また、兄弟同士はそれほど仲が悪いわけでもないですが、相続人本人ではなくその配偶者が間接的に関与することによって、まとまるものもまとまらなくなるケースもあります。
►家族が誰も知らない相続人がいたケース
財産の問題のところでも触れましたが、結婚・離婚を繰り返しており、前配偶者との間にも子どもがいるような場合も揉めてしまう原因となり得ます。
前婚時代のことを詳しく伝えている人も多くないでしょうから、被相続人が亡くなり相続手続きを進める過程で、相続人を確定させる調査の段階で初めて発覚するというケースも意外とあるものです。
当然知らなかったとしても、被相続人の子どもであれば間違いなく相続人となりますので、面識のない新たに発覚した相続人に連絡を取り事情を説明し、遺産分割協議を開かなければなりません。
或いは知らない人からいきなり自分は被相続人の子どもであり相続人だから相続する権利を主張されることも考えられます。
「争うほどの財産がないから・・・」「うちの家族はみんな仲が良いから」とはならないのが現実です。
それを避けてより円満に、ご家族が納得した上で手続きを完了・財産を承継させるためにはやはり生前に相続の対策が必要不可欠となります。
5,遺産相続で揉めないための対策
それには、生前に遺言書を作成しておくことが一番の対策になります。
これまでご紹介してきたように、揉めるリスクがあるのは被相続人が亡くなった後、相続人があつまる遺産分割協議の場面です。
人の問題(個人の感情の問題)、相続財産の問題(分け方、配分の問題)があるにせよ、元々の財産の持ち主である被相続人は、遺言書によって自身の財産の全部または一部を自由に処分することができます。
遺留分の問題は別にありますが(「遺留分って何?」参照)遺言と異なる遺産分割協議は無効(遺言は法定相続より優先されます)となりますので、判断能力のあるうちに(認知症になると遺言作成は厳しくなります)有効な遺言書を作成しておくことが大切です。
それではどのような遺言書を作成するとよいのでしょうか、そのポイントをご説明します。
6,揉め事を起こさせない遺言書作成のポイント
►公正証書で作成する
遺言書を作成するのであれば、証明力が高く、無効になるリスクが極めて低い公正証書遺言にしましょう。
自筆証書遺言は手軽に費用もかけず作成できるのがメリットですが、表現が不明確なために財産の特定が難しかったり印鑑を押し忘れたりといった無効になるリスクがあります。
それらをカバーできる公正証書による遺言作成が間違いありません。
►遺言書に「付言事項」を記載する
付言事項というのは、どの財産を誰にどのくらい相続させるのかという内容「以外」の気持ちの部分になります。
仮に家業を継いでもらう長男に、より多くの財産を残す遺言を書いた場合、なぜそのようにしたのかご自身の気持ちを丁寧に記しておくことで、相続人の理解につながります。
同様に、長年にわたり自身や妻の介護を献身的にしてくれた長女に対してより多く財産を残したいのであれば、そうした事情を記しておくとよいでしょう。
また付言事項には妻への感謝や、子ども達みなが仲良くしていくように、といった願いも記すことができ、単に財産を分けるためだけの遺言と比べ、絶対ではありませんが、より被相続人の思いが伝わることで揉め事を起こさせない効果は間違いなく高まります。
7,まとめ
遺産相続という問題は、人として生を受けている以上必ず起きる問題です。
人生は死んだら全て終わり、と考える人もいるでしょうが、私はそうは思いません。
親がいるから自分が生まれ、また自分が亡きあとは子に承継されていくように、命は全てつながっていくのであって、死が終わりではありません。
次の世代に何を残していくかを考えたときに、遺言書の活用はとても有益な手段となり得ますのでぜひご活用いただければ幸いです。
「公正証書遺言書」作成なら当事務所へご相談ください
公正証書による遺言書を作成するには、遺言内容が一番重要ですが、財産や人に関する様々な証明書類の取得や公証役場での公証人とのやりとりが発生します。
こうした手続きをご自身だけで最後まで行うとなれば相当な時間、労力をかけることになり、せっかく遺言を残そうと思っても途中で挫折してしまってはとても残念です。
当事務所は、京都市を中心に関西全域で、公正証書遺言の作成サポートを専門にしている行政書士事務所です。
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確実に公正証書遺言を作成したいとお考えの方は是非ご相談ください。
ご相談予約は「下記フォーム」か「お電話」からお待ちしております。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
行政書士はやし行政法務事務所
代表行政書士 林 宏雄
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