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遺留分の放棄と手続き、相続放棄との違いなどを解説します

初稿:2022.6.1

更新:2023.12.14

妻が既に他界しており、夫(本人)には子どもが3人いる状況で、財産のすべてを長男に渡す遺言を残したいと考えている場合、本人が生前に他の2人の子どもの相続権を放棄させておくことはできるのでしょうか。

 

目次

1,生前の相続権の放棄

相続人の地位を失うことになる【相続の放棄】という方法は、被相続人が亡くなった後に相続人自らが行うことができるものです。

 

なので被相続人の生前には、相続人に相続権を放棄させることはできません

 

相続放棄をさせることはできませんが、ご自身の意思として全財産を長男に譲る内容の遺言書を作成しておけば、一応は長男が遺産の全部を取得します。

 

ただし、他の相続人(他の子2人)は、遺言によっても奪われない【遺留分】という権利が保証されていますから、この遺留分を侵害されたものとして、長男に対し遺留分侵害額の請求をすることができます。

 

2,遺留分の生前放棄

そこで民法は、相続開始前(被相続人の生前)において、家庭裁判所の許可をうけたときに限って【遺留分の放棄】をすることが認められています。

 

遺留分は、遺言や生前贈与といった被相続人の行為によっても奪われない最低保証とでもいうべき相続人の権利です。

 

それにもかかわらず、相続開始前に自由に放棄することを認めてしまうと、被相続人やその他の者の圧力により遺留分を放棄させられるというおそれがあります。

 

そこで、遺留分制度の趣旨を生かし、遺留分の放棄がむやみに行われないように、家庭裁判所の許可がある場合に限り【遺留分の生前放棄】が認められています。

 

なお、被相続人が亡くなった後に遺留分の放棄をする場合は、遺留分権利者である相続人がその意思表示をすることによって遺留分を放棄することができます。

 

(参考記事:遺留分って何?

 

3,遺留分放棄の方法

遺留分放棄は、遺留分をもつ相続人家庭裁判所に申し立てることによって行います。

 

申し立てをうけた家庭裁判所は、遺留分放棄が相当かどうかを判断して、許可あるいは却下の審判をします。

 

その判断にあたっては、次の事項について審理が行われます。

 

放棄の意思

遺留分放棄が、放棄者の真意にもとづくものかどうか、遺留分の意味、その放棄の意味を理解したものかどうか。

 

放棄の理由の合理性、必要性

放棄をする理由が合理的なものか、真に必要なものか。

たんに長男に全部相続させたいということでは足らず、家業維持のためどうしても必要かといったことです。

 

代償性

放棄と引換えに、何らかの代償があるかということであり、放棄者がすでに遺留分に相当するくらいの財産の贈与をうけているかどうかといったことです。

 

このように、遺留分の生前放棄には一定の要件が必要とされています。

 

そして家庭裁判所がこれらの要件を審理した上で遺留分放棄の許可をするかどうかの判断をすることになります。

 

4,遺留分を侵害してしまう場合の遺言書

遺言書は自身の財産をどのように分けるのかという自由な意思を表現したものです。

 

しかしそのように自由な意思を表現した結果、相続人の遺留分を侵害してしまう内容となってしまうこともあるかもしれません。

 

その場合、遺言書に【付言事項】として、財産の分け方についての考え方や遺留分侵害額請求をしないでほしい旨の内容、想いを記載しておくことも有効です。

 

ただし、付言事項には法的な効力がない点は認識しておかなければなりません。

 

(参考記事:付言事項の文例とポイント

 

5,まとめ

以上、遺留分の放棄・相続の放棄についてご紹介させていただきました。

 

ルール上は遺留分の放棄が可能になっていますが、その申立てをするのはあくまで遺留分権利者である相続人本人です。

 

被相続人と相続人、今回の事例であれば親と子の日頃の関係や付言事項を活用した遺言書の作成など、残される相続人への配慮が必要であると思います。

 

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