相続が発生した後、遺言書の内容に何らかの違和感を感じたり納得のできないようなものだった場合、遺言を無視して遺産分割協議をすることができるのでしょうか。
答えは「できる可能性もあるが、しない方がよい」ということになります。
何ともはっきりしませんが、回答するとしたらこのような表現になります。
場合によってはペナルティを受ける事もありますので注意が必要です。
目次
1、遺言書に従わずに遺産分割協議ができる場合
①遺言者が遺言内容と異なる遺産分割協議を禁止しておらず、②全ての相続人・受遺者が遺言内容と異なる遺産分割を行うことに同意していて、③遺言執行者の同意が得られている場合(遺言執行者が指定されている場合)、全ての相続人が集まって遺言内容と異なる遺産分割協議を行うことは可能です。
できなくはないという表現の方がニュアンスとしては正しいのですが、自筆証書遺言が自宅で発見された場合などは、それを無かったこととして遺産分割協議書を整えてその後の相続手続きを行ったとしても法務局や金融機関などはその事実を把握しようがありません。
そういう意味で結果的に遺産分割協議ができてしまうというわけですが決してお勧めはできません。
その時点で相続人が遺言書の内容とは違う遺産分割に全員同意していたとしても、後に気持ちが変わってトラブルに発展しまうことも考えられますし、やはり遺言書というのは遺言者本人(故人)が自身の財産をどのように承継させたいのかという最後の意思表示なのであって、遺言書がある以上は相続人があれこれ意見を交わして決めるものではないと思うからです。
そうならないためにも、遺言書を作成する際は、遺言執行者として相続人以外の第三者、例えば弁護士や行政書士などの専門家を指定しておくことや、自筆証書ではなく公正証書で作成しておく、遺言の内容をあらかじめ推定相続人に伝えておくといったことが対策として有効です。
2、遺言書を無視して遺産分割ができない場合
遺言書の内容を無視した遺産分割が認められない場合についてご紹介します。
✅相続人・受遺者が一人でも反対した場合
遺言書とは異なる内容の遺産分割を行うには、相続人・受遺者全員の同意が必要となります。
(受遺者というのは相続人以外で財産の寄附を受ける者をいいます)
逆に言えば、相続人・受遺者が一人でも反対した場合には、遺言書とは異なる内容の遺産分割はできず、遺言書どおりに遺産を分けなければなりません。
✅遺言により遺産分割が禁止されている場合
<民法第908条>
被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。
遺言者は、遺言により、5年を超えない範囲内で期間を定めて、遺産分割を禁止することができます。
この遺産分割の禁止が遺言の内容となっている場合は、相続人は禁止期間内については遺産分割が行えません。
相続人全員が納得していても同様です。
その定めを無視して行われた遺産分割は無効となってしまうので注意が必要です。
✅遺言執行者がいる場合
遺言で遺言執行者が指定されている場合があります。
遺言執行者とは、遺言の内容を執行する者のこと言い、遺言執行者には相続人も指定することができます。
遺言執行者に相続人が選任されていれば、相続人全員の納得があれば遺産分割を行えることになります。
但し、先に述べたように、相続人以外の受遺者がいる場合は、同様にその受遺者が納得(遺贈の放棄)している必要があります。
そして、遺言執行者が相続人でなかった場合に、遺産分割ができるかどうかは遺言執行者の意思がどうなのかという事がポイントになります。
遺言執行者の本来の目的は、故人の意思である遺言を正確に執行することにあります。
したがって、受遺者がおらず(或いは受遺者が納得し)、相続人全員が納得していたとしても遺言執行者が応じなければ遺言と違う遺産分割はできないことになります。
<民法1012条>
1.遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
遺言執行者が就任している状況で、遺言とは異なる内容の遺産分割を行いたい場合には、遺言執行者の辞任または解任が必要となります。(民法1019条1項、2項)
相続人(または受遺者)の誰かが遺言執行者の場合は、自ら家庭裁判所に辞任を申し出ればよいでしょう。
一方、そうでない人が遺言執行者の場合は、遺言執行者に対して辞任を説得する必要があります。
3、遺言書に関し絶対やってはダメなこと!ペナルティが発生する場合
✅刑事上の責任
遺言書を単に「無視」するにとどまらず、偽造・変造・破棄・隠匿に及んだ場合には、下記の刑事罰を受けますので絶対にやめましょう。
成立する犯罪 | 法定刑 | ||
偽造 |
「遺言者が作成した」と称して、 他の人が勝手に遺言書を作成すること |
有印私文書偽造罪 (刑法159条1項) |
3月以上5年以下の懲役 |
変造 |
遺言者が作成した遺言書を、 他の人が勝手に書き換えること |
有印私文書偽造罪 (同条2項) |
3月以上5年以下の懲役 |
破棄、隠匿 |
破棄・・・遺言者が作成した遺言書を捨てること 隠匿・・・遺言者が作成した遺言書の存在を 知っているのに他の相続人に知らせないこと |
私用文書等毀棄罪 (刑法259条) |
5年以下の懲役 |
✅民事上の責任
上記は刑事上の責任ですが、民事上の責任として、相続人の欠格事由に該当します。
つまり相続権を失うことになります。
相続権を失うということは、遺留分を含めた一切の権利が失われ、全く財産を相続できなくなってしまうということです。
相続権を失うだけでなく、他の相続人や受遺者に損害を与えたような場合には、不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性もあります。
<民法889条>
次に掲げる者は、相続人となることができない。
(略)
5.相続人関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
繰り返しになりますが、遺言書の偽造・変造・破棄・隠匿は犯罪ですので絶対にやめましょう。
4、遺言書の検認を受けなければ過料の対象になります
遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、遺言書を家庭裁判所に提出して検認を受けなければなりません。遺言書の保管者がなく、相続人が遺言書を発見した場合も同様です。(民法1004条1項本文)。
遺言書を無視して遺産分割をするから、検認はしないでおこう、というわけにはいかず、必ず家庭裁判所に検認を求める必要があります。
もし検認義務を怠った場合には、5万円以下の過料に処される可能性があるので注意しましょう(民法1005条)。
なお、以下のいずれかに該当する場合には、遺言書の検認手続きは不要となります。
・公正証書遺言の場合(民法1004条2項)
・法務局で保管されている自筆証書遺言の場合(遺言書保管法11条)
遺言書は出来る限り公正証書で作成しておくことをお勧めします。
5、まとめ
今回の記事のポイントは以下の点になります。
- 遺言書に遺産分割禁止事項がなく、相続人・受遺者・遺言執行者全員の同意があれば遺言内容と異なる遺産分割協議は可能(ですが、お勧めしません)。
- 遺言に関するルール違反は刑事上、民事上の責任を負う可能性がある。
- 自筆証書遺言は検認手続きを行わなければならない。
やはり遺言書というのは、亡き故人の最期の意思表示になりますので、相続人をはじめ関係者はその意思をしっかり受け止めて、より円満な形で財産を承継したいものです。
今回の記事が遺言書に関心ある方々のご参考になれば幸いです。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
行政書士はやし行政法務事務所
代表行政書士 林 宏雄
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