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遺言書を作成するなら遺言執行者を指定した方がよい理由

初稿:2023.4.8

更新:2024.2.3

当事務所で遺言書作成をサポートさせて頂く場合、ほとんどの場合に「遺言執行者」を指定して頂くようにしています。なぜ指定しておいた方がよいのでしょうか。遺言書作成を検討しておられる方はご参考にして頂ければ幸いです。

 

目次


1.遺言執行者とは

遺言書というのは、書くことが目的ではありません。

あくまで遺産の分け方において自分の意思、希望を実現してもらうことが目的ですから、この点をしっかり認識しておくことが大切です。

 

今回のテーマである遺言執行者というのは、故人(遺言者)の死後において、遺産の処理や遺言書に基づく指示の実行を担当する人を言います。

主な役割には以下のようなものがあります。

 

  1. 遺言書の実行
    遺言執行者は、遺言書に書かれた指示に基づいて、財産や資産の分配、債務の処理、指定された人への贈与などを実行します。

  2. 法的手続きの処理
    遺言執行者は、相続手続きや法的手続きを進めます。場合によっては法廷手続きへも参加しますし相続税の計算・納付、法務局への不動産登記申請なども含まれます。

  3. 資産の管理
    遺言執行者は、故人の資産を管理し、必要に応じて評価や売却を行います。

  4. 相続人や関係者へのコミュニケーション
    遺言執行者は、故人の遺産に関する情報を相続人や関係者に伝え、コミュニケーションを取る役割も担います。これは感情的なサポートも含むことがあります。

  5. 裁判所や税務当局との連絡
    遺言執行者は、必要に応じて裁判所や税務当局と連絡をとり、法的手続きを円滑に進めるための協力を行います。

2.どんな人が遺言執行者になるか

遺言執行者は遺言者が自由に決めることができます。

ですから長男や長女など親族にしてもらうことも可能ですがあまりお勧めはできません。

 

なぜなら親族は当然故人とは親しい関係にあり安心感がありますが同時に相続人という立場でもあり、複数の相続人がいれば感情的なもつれから争族になってしまうリスクが高まってしまうからです。

更に法的手続きをはじめとする先述の役割を担うには精神的、肉体的、スケジュールの面でも相当な負担となります。

 

では遺言執行者に向いている人の特徴をまとめてみたいと思います。

  1. 信頼性と誠実さ
    遺言執行者は、故人の意志を忠実に守り、財産を正確かつ公正に分配する責任があります。そのため、信頼性と誠実さが重要です。

  2. 法的な知識や経験
    遺言執行者は、法的な手続きや相続に関する知識が必要です。法的な文書や手続きに習熟しているか、または専門家のアドバイスを受け入れることができる人が適しています。

  3. 財務的な知識
    遺言執行者は、財務管理や資産分配に関する知識が必要です。これには、遺産の評価、債務の処理、相続税の計算などが含まれます。

  4. コミュニケーション能力
    遺言執行者は、故人の家族や関係者と円滑にコミュニケーションをとる必要があります。感情的な局面で冷静さを保ち、明確に情報を伝える能力が求められます。

  5. 時間とエネルギーの確保
    遺言執行者は、遺言書に基づき、相続手続きを進める責任があります。このため、時間とエネルギーを十分に確保できる人が適しています。

  6. 故人との親密な関係の可能性
    しばしば、故人との親しい関係がある人が遺言執行者に選ばれることがあります。しかし、感情的なつながりがある場合でも、法的な責任を果たせるかどうかが重要です。

まとめると、遺言執行者は信頼性があり、責任感が強く、法的な手続きや財務管理に精通している親族以外の第三者が向いています。

 

(参考記事:遺言執行者に選任されたら行うこと

3.遺言執行者を第三者に指定するメリット・デメリット

遺言執行者を第三者に指定するメリットとしては、大きく分けて4つあります。 

  1. 相続人の手間がかからない
    遺言執行者が相続人を代表し、相続人や相続財産の調査、所有権移転登記(相続登記)などを行ってくれるため、相続人の手間がかからず相続手続きがスムーズになります。

  2. 中立的な立場で公正に手続きを進めてくれる
    故人の意志を守り、あくまで執行者として公正中立な立場で相続手続きを進めてくれるので争いに発展しにくいです。

  3. 相続人が勝手に相続財産を処分できなくなる
    遺言執行者には、相続財産の管理・処分をする権限を持っています。裏を返せば、相続人が不動産の売却をするなど、勝手に相続財産を処分することができなくなります。

  4. 子の認知や推定相続人の廃除・取消しを行ってくれる
    これらの手続きは遺言執行者にしかできません。

遺言執行者を指定することをおすすめするのはこれらのメリットがあるからです。

また、遺言執行者の選任が不可欠な場合もあります。

 

デメリットを挙げるとすれば、仮に遺言執行者を専門家に依頼した場合は費用がかかるという点があります。

しかしこの点は円滑な相続を実現するための手段として、どのように考えるか、そこは個人の価値観によるところです。

4.遺言執行者を定めない場合はどうなるか

遺言書に遺言執行者を定めない場合は、不動産の名義変更などの手続きは相続人全員で行うことになります。

 

ところが相続人の中に協力をしてくれない人がいる場合には、実際には遺言の執行がいつまでたっても行えないことになってしまいます。

この場合には、家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てて遺言執行者を選任してもらう必要があります。

 

遺言書に遺言執行者の定めをあらかじめ書いておけば、家庭裁判所に選任の申立てをしなくてもすみますので、そういう意味でも遺言執行者の定めを記載しておいた方がよい場合が多いです。

ただし、遺言執行者にはその就任を事前に承諾してもらうことが前提になります。

 

先にも述べたとおり、遺言の内容に子の認知推定相続人の廃除・取消しが含まれている場合には、遺言執行者の定めがないと手続きができませんので、必ず指定するようにしてください。

 

このように遺言執行者の指定を含め遺言書を書くにあたっては法律の知識が必要になりますので、やはり専門家に相談するとよいと思います。

 

5.遺言執行者の選定方法

遺言執行者を選定する方法は以下の3通りです。

  1. 遺言書で遺言執行者を指名する
  2. 遺言書に遺言執行者は第三者に決めてもらうように指定する
  3. 裁判所に選定してもらう

遺言執行者として相続手続きを任せたいという人が、遺言者自身の中ではっきり決まっている場合は、あらかじめ遺言書で指定しておくとよいですが、繰り返しになりますがこの場合、遺言執行者に指名したことを黙ったままでいると、後から遺言執行者になることを承諾されない可能性もあります。

 

したがって、遺言執行者として指定したい人に遺言執行を任せたい旨を伝えて、事前に承諾してもらいましょう。

 

もし遺言執行者を誰にすればいいか決まっていない場合は、遺言執行者を指定する第三者を指定しておきましょう。

指定された第三者が相続時の状況に応じて適切な遺言執行者を選ぶように段取りをしておくと、相続人の間でのトラブルを防ぐことができます。

 

遺言書で遺言執行者の指定がなかったり、遺言執行者として指定された人がすでに亡くなっていたりした場合は、家庭裁判所に選定してもらうという方法もあります。

 

家庭裁判所に選定してもらう場合は、まず管轄の家庭裁判所に以下の書類を提出して遺言執行者の選任申し立てを行いましょう。

 

遺言執行者の選任申し立てに必要な書類

  • 申立書(家庭裁判所HP
  • 遺言者の死亡の記載のある戸籍謄本
  • 遺言執行者候補者の住民票または戸籍附票
  • 遺言書のコピーまたは遺言書の検認調書謄本のコピー
  • 遺言者との利害関係を証明する資料(戸籍謄本など)

申し立てには遺言書1通につき収入印紙800円と連絡用の郵便切手代がかかります。

 

遺言執行者の申し立てが受け付けられると、家庭裁判所で審判が行われ、遺言執行者が選定されます。

 

6.遺言執行者が遺言者より先に死亡していた場合

遺言執行者が遺言をした人よりも亡くなってしまった場合はどうなるのでしょうか。

法律では、以下のように定められています。

       
  「遺言執行者がないとき、又はなくなったときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって、これを選任することができる」  
   

(民法1010条) 

     

つまり、遺言者や相続人が家庭裁判所に対して別の遺言執行者を選任するよう申立てができることになっています。

しかし、家庭裁判所での手続きとなると時間もかかりますし、やはり負担は大きいものです。

 

そのため、遺言執行者が先に亡くなっても問題ないように準備しておくことが大切です。

具体的には、以下のような手段が考えられます。 

 

  1. 遺言執行者は遺言者よりも若い方を選任する
    遺言者が信頼できる知人に執行者をお願いしたとしても、その知人が遺言者と同世代あるいは年上ということになると、どちらが先に亡くなるか・・・こればかりは誰にもわかりませんが、やはり遺言者よりもお若い方に依頼する方がよいでしょう。

  2. 遺言執行者を複数選任しておく
    遺言執行者は、一人だけでなければならないという規定はありませんので、あらかじめ複数人を執行者として遺言書に記載しておくと、一人が亡くなってしまった場合に備えることができます。

  3. 予備の遺言執行者を選任しておく
    「遺言執行者〇〇が亡くなった場合は、〇〇を遺言執行者とする」と予備的な遺言執行者を決めておくことで、一人が亡くなった場合に対処することができます。

 

7.まとめ

遺言書を作成するのであれば、公正証書であれ自筆証書であれ遺言執行者を定めておいた方がよい場合がほとんどです。

 

しかし、遺言の執行を託したい人の承諾を得ることができたとしても、遺言書への書き方などで不備があっては遺言者の意思通りに執行されない可能性もありますし、遺言執行者として指定された人も困ってしまいます。

 

そういうリスクも考えると、遺言執行者には法律専門職を指定しておくと安心です。

 

これから遺言書を作成される人はご参考にして頂ければと思います。

 

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最後までお読みくださり、ありがとうございました。