会社や個人事業の経営をされている方は皆共通の課題をお持ちだと思います。それは「事業承継」の問題です。後継者が決まったからこれで良し!と安心している方ほど要注意です。事業承継を成功させている経営者が実践している遺言書の活用について解説します。
目次
7 ,まとめ
1,「事業承継」を3つに分けて考える
「事業承継」とは事業を承継させることには間違いありませんが、もう少し分解してみるならば、以下の3つを承継するといえます。
- 人(経営者)の承継
- 知的資産の承継
- 有形資産の承継
それぞれについて少し考えてみましょう。
①人(経営者)の承継
まず思い浮かべるのはここです。誰に経営を引き継いでもらうのかということ。
長男?配偶者?はたまた親族以外の誰か?後継者を誰にするのかは重要な問題です。
②知的資産の承継
知的資産とは、経営理念・会社の強み・長年の信用・従業員の技術・ノウハウ・取引先の人脈・顧客情報・知的財産・許認可等といった無形資産の総称です。知的資産経営という言葉もあるくらい、会社の経営においては重要な部分です。財務諸表といった数字に表れない、目に見えないこうした資産を知的資産といいます。
③有形資産の承継
株式・事業用資産・資金といった有形の資産です。こうした資産は事業所の名義であることが多いと思いますが、経営者の個人名義である場合も少なくありません。このような資産は承継するときに注意が必要です。
これら事業承継を円滑に進めるうえで「トラブルが発生することなく後継者へ事業が引き継がれる」ことが大切です。
①と②に関しては比較的重要視される傾向にありますが、③についてもやはり重要で、事前に対策を講じているのかどうかで、結果は全然異なってきます。今回の記事では主に③について述べたものになります。
2,事業承継で遺言が活用できる理由
書店に行くと「終活」「エンディングノート」といった書籍もたくさん並んでいて、遺言書を書く人がかなり増えてきました。遺言書を書くのはあくまで一個人ですが、経営者の視点からみても、遺言を活用するメリットがたくさんあります。
①遺産分割協議を回避できる
相続が発生した時に、相続人全員で遺産の分割について協議することを遺産分割協議と言います。
遺言書がなかったばかりに父親が亡くなったとたん家族が大揉めになるというシーンはテレビドラマなどで見たことがあるかもしれませんね。
遺産分割協議の一番のネックは、参加する共同相続人「全員」の合意が必要という点です。
遺言を作成することで相続を行えば、遺産分割協議を開くことなく事業承継を終えることができます。
②自社株が分散するリスクを回避できる
被相続人となる現経営者が後継者をきちんと定めていても、遺言書を残さないことで遺産分割協議が行われた結果、自社株が分散してしまう恐れがあります。
後継者が今後の経営を安定して行うためにも、自社株を一定以上保有し議決権は確保しておきたいはずです。
遺言によって相続させる、又は遺贈する親族を指定しておけば、事業と関係ない親族が大きな株数を持つことも防ぐことができます。
③親族以外の人にも財産を遺贈できる
相続人となれるのは、配偶者と一定の血族のみです。
血族の中でも優先順位があり「子(代襲相続人含む)」⇒「両親などの直系尊属」⇒「兄弟姉妹(代襲相続人含む)」という順に順位が決まります。
また先の順位の人が1人でもいる場合は、後の順位の人は相続人にはなれません。
優先順位の低い血族者やそれ以外の人に社長として経営を継いでもらいたい場合は、遺言書によって遺贈の意思を明確にすることで実現できます。
3,遺言をせずに死亡したらどうなるか
現経営者が遺言など何の対策も講ずることなく死亡した場合、現経営者の財産の相続は、民法の定める通り、法定相続人に法定相続分通りの分割がされることになります。
もちろん、相続人が集まり遺産分割協議を行うことで、後継者を決めることができれば問題ありませんが、先に述べたように遺産分割協議は相続人全員の合意がなければ成立しません。
したがって、1人でも反対する相続人がいれば遺産分割協議は成立しません。
その場合、特定の者に経営に必要な株式やその他の資産を集中させることはできず、法定相続分を前提とした遺産分割では、事業承継の成功は望めません。
4,遺言の基礎知識をざっと解説
ところで、事業承継に遺言書が活用できるというテーマですが、そもそも遺言について簡単に述べておきたいと思います。
主に実用されている遺言書は「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種になります。
それぞれの特徴をご紹介します。
自筆証書遺言
作成方法 |
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メリット |
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デメリット |
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公正証書遺言
作成方法
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メリット
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デメリット |
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自筆証書遺言、公正証書遺言、それぞれ特徴があるわけですが、どちらが良いかというと、間違いなく「公正証書遺言」になります。
遺言書の方式については下記記事をご参照ください↓
5,遺言書を作成する時に押さえておきたいポイント
後継者に、経営に必要な株式やその他の資産を相続させたいという思いで遺言書を作成する時に気を付けたいポイントが「遺留分」です。
遺留分はここでいう後継者以外の相続人の最低限の取り分のことです。
後継者にできるだけ財産を承継させたいあまり、遺留分を考慮せずに配分すると、この遺留分を侵害してしまう可能性があります。その場合でも遺言が無効になることはありませんが、侵害された相続人が遺留分侵害額請求を行うことにより親族トラブルのもととなります。
後継者に経営に必要な資産を承継させた後、残った相続財産を後継者以外の相続人に遺す財産が遺留分を「超えている(遺留分侵害なし)場合」と「超えていない(遺留分侵害あり)の場合」を想定してトラブルを防ぐ遺言書についてご紹介します。
✅残った相続財産の合計額が後継者以外の相続人の遺留分を超えている(遺留分侵害なし)
この場合は、残りの相続財産から後継者でない相続人たちへの相続分を分配させます。具体的には、「後継者以外の相続人が残りの相続財産を承継する」ということを遺言であらかじめ指定しておき、遺留分侵害を防止します。また、遺言書を作成するということは遺産分割協議も行われなくていいよう配慮することにもなり、遺留分問題以外の家族間トラブルにも対処できます。
✅残った相続財産の合計額が後継者以外の相続人の遺留分を超えていない(遺留分侵害あり)
この場合は、後継者から後継者以外の相続人へと「代償金」を支払わせる遺言書を作成することにより、遺留分侵害を防止します。
代償金というのは、後継者が事業用として多くの資産を継ぐ代わりに、後継者→後継者以外の相続人へ払うお金のことです。
6,これに当てはまる経営者様は遺言書作成がおすすめ
すべての経営者様にあてはまるわけではないですが、特に下記のような方には事業承継のための遺言書作成をおすすめします。
- 相続人のうち複数人が会社関係者である
- 財産のほとんどが会社の株式である
- 個人事業主である
✅相続人のうち複数人が会社関係者である
相続人となる親族それぞれが法定相続分による相続を主張した場合、財産が分散してしまう結果、後継者にしたい親族に、必要な数の株式や資産を相続させられないことが考えられます。
このほか、親族間で会社運営の意見が食い違った場合に、会社支配ができるだけの株式を所有する親族がおらず意思決定が行き詰まったり妨げになる可能性もあります。
✅財産のほとんどが会社の株式である
こちらも上記と同様ですが、子どもたち同士で争ってほしくない気持ちが先行し、兄弟間の相続分を平等にする結果、やはり株式の分散につながります。
後継者としたい親族のひとりに株式相続を集中させた場合、相続できない相続人が不満を抱くことも考えられますので、遺言の中でなぜこのような内容にしたのかという理由や想いを盛り込み(=「付言事項」と言います)、なるべく親族に理解してもらえるよう配慮しておくことはとても大切なことです。
✅個人事業主である
個人事業は、事業に家族数人が絡んでいる場合が多いケースです。
また、土地や事務所・工場といった建物などの事業用資産を、個人名義で賃貸している場合もあります。
この時も遺言で事業用資産を後継者に相続させることを明らかにしつつ、後継者以外の相続人が不満に思わないよう、事業用資産によって発生する賃料や、事業に関係しないその他資産が後継者以外の相続人に渡るよう配慮することが大切です。
7,まとめ
人、無形資産、有形資産など、円滑な事業承継が実現されるかどうかで、後継者の会社運営は大きく影響されます。
事業承継を成功させている経営者の多くは遺言書を有効活用しています。
まずは事業承継を成功させるための第一歩として、遺言書を作成してみてはいかがでしょうか。
事業承継を想定した遺言書の作成なら当事務所へご相談ください
当事務所は、京都市を中心に関西全域で、公正証書遺言の作成支援をしている行政書士事務所です。推定相続人の範囲や財産内容をお調べしながら、将来争いになる可能性を出来る限り無くし、後継者へスムーズに事業承継されるよう配慮した内容をご提案いたします。公正証書遺言を作成されるケースですと、遺言者が公証役場へ足を運び内容の打合せをする必要がございます。当事務所ではお客様に変わり公証人との連絡調整を代行いたします。まずはご希望やお困りごとなど何でもお話し頂ければと思いますので、お気軽にご相談ください。
案件によっては税理士や司法書士などの他士業とも連携しながらご相談者様の希望を形にいたします。
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最後までお読みくださり、ありがとうございました。
行政書士はやし行政法務事務所
代表行政書士 林 宏雄
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